トップリーダーインタビュー

未来に向けた選択と集中で
観光事業からの撤退を英断

サゴーエンタプライズ株式会社
代表取締役社長 小野晃司 氏

2024年9月掲載

ホテル、飲食事業を展開するサゴーエンタプライズ株式会社(浜松市中央区鍛冶町)が、運営していた同市舘山寺の「舘山寺サゴーロイヤルホテル」と「ホテル山喜」の2ホテルと同社グループで運営する浜名湖遊覧船事業を外資系企業に売却し、観光事業から撤退した。取り組んでいた事業の「選択と集中」の一環だが、そこにはどのような経営判断があったのか、詳しくお話しを伺った。

■バブル崩壊により迎える転換期

 

今回の観光事業譲渡に至るまでの背景を時系列で教えて下さい。

 
舘山寺サゴーロイヤルホテルは私が大学を卒業した1989年、ちょうどバブルの絶頂期に消防法の改正による大規模工事を行いました。全室にスプリンクラーを付け、避難路の確保や諸々の義務化に対応し、20億円余を投じましたが、先代はこのバブル景気が長続きしない事を察知し私に早く戻って来いと。当時陸上競技(走り高跳び)に全力を傾け、オリンピックを目指していましたが、それを断念して一度会社に戻り、相談を受けました。その際、ホテル事業も大きな転換期を迎える中で将来はグローバル化する事がわかっていたので、まず米国へ留学し、MBA(経営学修士)でマーケティングを専攻して、企業会計で財務の勉強をしてこようと、一から勉強しなおして卒業後に再び会社に戻りました。4年半の留学を終えて帰国した時に、すでにバブルは崩壊していて、日本経済は大きく変わっていました。留学で大量生産・大量消費は続かないという事を学びましたが、正にそのとおりでした。成長神話も崩壊して、会社もどんどん潰れていきました。
 

経済が大きな転機を迎える時でしたね。

 
時代が変わる中で、まず街中にあったショッピングモールの「サゴービル」(浜松市鍛冶町)を別業態に変えようと考え、5年かけてテナントを整理し、解体して駐車場に変えました。専門業者と長期契約し、資産を残して安定的に運営できる体制をとったのです。背景には、郊外での大型商業施設の開発や、インターネットの台頭による購買行動の移行(現場消費からオンライン消費へ)がありました。同時に、家賃を払い続ける事業を見直す方針のもと、駅前のホテルと飲食事業から撤退しました。残る自社所有のホテルもネット予約に強い大手業者のFCとして転換させ、今では順調に運営できるようになりました。その間、リーマンショックやO157、東日本大震災などがありましたが、とにかく本体の経営を盤石なものにした後に、最終的に大型施設である舘山寺の観光部門をどうするか、判断しようと思っていました。

■経営基盤を整えよりよい状態に

 

長期にわたって事業展開を模索していたのですね。

 
舘山寺サゴーロイヤルホテルに関しては、建築基準法の改正による耐震補強工事を行い、その時に団体向けから個人向けに特化した運営に切り替え、経営効率が改善してきたところで新型コロナが蔓延しましたが、グループ全体で利益を確保でき、返済原資も確保できたのを契機に、ようやく譲渡に向けて本格的に動き出しました。
 

時間をかけた理由をお聞かせください。

 
儲からない事業のままでは売却先に魅力を感じてもらえないと考え、業績も含め、良い状態で渡せるようにと時間をかけました。
 

既得権とも言える立地のホテルだったわけですが、良くなったから自社で運営するという選択肢はなかったのですか?

 
50数年経過したホテルを再び改装し、手をかけて、その間事業を休止して…というのは考えられません。良い場所ですが、潮風の問題など管理は大変です。 自分は再投資しても回収できないという経営判断だったので、それができる会社に担ってもらうのが最善策だと思いました。
 

英断ですね。

 
「やれるのにやらない」と「やれないのにやる」―この2つの経営はいけない。やれないものを(今回の事業譲渡のように)やれるようにするのが経営のバランスだと思います。 ホテル事業は大きな先行投資が必要ですし、外資系もどんどん進出してくる中で、我々のような地方の小さい企業が修繕を続けてもお客様が望む付加価値に応えられない。今後、人件費や資材の高騰を価格転嫁する事も難しく、 長期展望が描けない。これは自分たちの問題だけでなく、ひいては地域の観光振興にもマイナスになる。撤退もコストは掛かりますし、元気なうちに次の手を打つ必要があったのです。
 

譲渡先はどのような会社でしょうか。

 
外資系のALEXANDER&SUN(本社:東京都)という免税店やホテル事業を手掛けている会社です。
 

検討された会社はいくつかあったのでしょうか。また、この会社に決まった要因はなんでしょうか。

 
検討して頂いた会社は2年の間に十数社ありましたが、契約条件の中に、社員の雇用維持や観光資源としての地域協力、取引業者の維持なども有りました。 アレキサンダー社にはそれらを了解して頂き、さらに大きい理由として、別会社で運営している浜名湖遊覧船事業も引き継いで頂けるという点がありました。 遊覧船は観光振興の上で重要だと考えていましたし、ホテルを運営している会社でないと相乗効果を生かせません。良い条件でお引き受け頂いたと思っています。

■地域振興を視野に最善策を

 

譲渡にあたって、どのようなスキームで進められたのでしょうか。

 
サゴーエンタプライズの株を分割し、新たな会社を作った上で、そこにサゴーロイヤルホテルとホテル山喜、それに付随する資産や権利関係を持たせて売却するという「分社型新設分割」という方式で新会社の株式を譲渡しました。
 

その手法を用いた理由をお聞かせください。

 
旅館の営業は様々な免許や権利が絡んでいて、単純に不動産の売却の形だと、再度、免許や権利を取得しなくてはならない。その間、営業できない時間が生まれてしまい、時間的なロスが生まれる。営業を継続するために、最善の方法を選択しました。
 

このスキームに対して株主の反応はいかがでしたか。

 
創業時からお支え頂いている方も多く、300名近い株主がおられるのですが、臨時株主総会を開催して、企業価値を高めるための判断として株主の皆様のご承認を頂いて、円滑に進める事ができました。

 

サゴーロイヤルホテルの今後の運営はどのように変化していくのでしょうか。

 
今後はインバウンド(訪日客)の団体を軸に運営をされるのではないでしょうか。詳しい方針に関しては新しい事業者が考えていかれるでしょうが、資金注入できる余力と思いがある企業ですから、地域振興にもプラスになると信じています。我々にとっては舘山寺から撤退、観光部門からの撤退という言葉がネガティブなものであっても、お客様にとって良くなるのであれば運営会社がどこであっても関係ないわけです。そこが重要だと考えます。 良いホテルになって舘山寺の評価が上がればいい。
 

今後のサゴーエンタプライズの経営方針をお聞かせください。

 
「選択と集中」という観点で事業の見直しを進め、大きな課題が解決しました。 一方で、利益を生むシステムは出来上がっているので、今後は財務体質を強化し、次の世代に向けた準備を進めていきたい。幸い、長年の経験で「これは良い」というより「これはダメだ」という知識は身についています。

■新たな柱も動き出す

 

観光事業、ホテル事業への未練はありませんか?

 
観光事業は好きですが、社長としてやるべき事と会社としてやるべき事は違います。自分は「旅館業」だけを継いだわけではなく、サゴーエンタプライズという会社を継承しました。その考えで行けば、会社を永続的に存続させる事が使命で、その順序を間違えずに変化に対応しながら今日に至っています。これからもその思いで、常に10年先を見越して経営にあたっていきたいと思っています。
 

経営者の中には二代目、三代目も多いですが、どう受け止めていますか?

 
後継者って富士山で言えば7合目とか8合目から頂上を目指すから「楽だ」と見られがちですが、実は空気も薄いし、経験も乏しい中できつい勾配を登らなくてはいけません。だから、登り切れずに諦めるケースも多い。自分は従業員と一緒に登りきって、頂上の良い景色を見て下山するまでが役目であり、それが先代への「報い」だと思っています。もともと大きな借り入れを背負ってスタートしたので、精神的には「どん底」からのスタートでした。 だから「あの頃は良かった」という回顧がない。栄華を知らないので、未だに上昇していると思っています。だから、今回の観光事業の売却に関しても「減らす物があるというのは幸せ」と捉えています。
 

考え方は大事ですね。攻守を視野に選択と集中を図られた今回の経営判断と、その先にある事業展開を楽しみにしています。

 
ありがとうございます。 これまで積み重ねた知見をもとに、新たな挑戦もしていきたいと思います。

小野晃司 onokoji

1966年生まれ、筑波大学卒。1994年、米国ホフストラ大学大学院にて経営学修士課程 (MBA) を修了。 同年帰国し、サゴーエンタプライズ株式会社に入社。1997年に常務取締役TQM推進室長、1999年に代表取締役専務、2004年に代表取締役社長に就任。 浜名湖遊覧船株式会社は2009年に伊豆箱根鉄道から事業承継し、地域観光の振興に寄与。

小野晃司

以上

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